2014年02月14日

続続 松山展ギャラリ−トーク

私が歴史画と言うものに手を染めたのは、源氏物語との出会いからでした。

ちょうど、源氏物語1000年紀、近づく・・・とかで、源氏人気が再燃しそうな頃、

小林秀雄の講演会の録音テープを聞かせて下さった方がいて、

本居宣長が源氏物語、もののあわれ、を日常的に研究していた・・とある。

当時、漠然と浅い知識でしかなかったけれど

本居宣長と言う立派な人が存在したことは良く知っており、

何となく敬意を抱いていたのですが、・・・・


423.JPG

松坂 本居宣長記念館内に飾られている肖像画



427.JPG

松坂 本居宣長記念館 修復再興された居宅 入口



426.JPG

松坂本居宣長記念館 修復再興された居宅


431.JPG

宣長様は絵も見事!!  描き遺された鶺鴒の作品






もののあわれ、の「あわれ」とは、「あっ あれ!」 の転化であり

「あっ あれ!」 が、「あわれ」に約まった・・・。

で、もののあわれは源氏物語に集約されている。と言ってる。・・・

なるほど!面白そう!!と、さっそく読んでみたのが円地文子訳の源氏物語でした。

これが、 めちゃくちゃ面白かった・・・・

読むうちに自分の想像力が刺激されて、各場面場面が自動的に脳裏に浮かんでくる

絵にしたらさぞ面白いであろうと・・・

こうしたら・・・ああしたら・・

ともかく一番気に入った“蛍”の妖艶なる一場を院展に発表したのが始まりです。

読んですぐに取りかかったので、ずいぶん乱暴で、下調べも何もかも不十分でしたが

描かずにはおれないくらい、魅了されたんです。


IMG_8705.JPG

 源氏物語 蛍    屏風作品です




IMG_8706.JPG 

同、源氏物語 蛍 屏風の部分・・・・玉鬘(たまかずら)の姫君

クリックすると拡大され見易くなります・・・




そもそも私の敬愛してやまない師匠が亡くなる前の年、こう云われた。



高橋君は風景よりも人物画が向いている、今まだ50歳前だから、

あと30年位は打ち込めるだろう・・・

真剣に取り組めば一家を成すくらいな境地へ、

ひょっとすると?行けるかもしれないよ。・・・・



師匠 今野忠一先生は、山岳画家という定評があり、

漏れなく私も重厚で男性的なその画風に魅了されておりましたから、

えーー! オレも先生みたいな雄大な山岳風景を描けるようになりたいのに。・・・

と、思いましたものの・・・・

先生の言われることに間違いがないのは経験でよーく知っていますので、

そんなものか・・・・と人物画に真剣に取り組む心が芽生えた頃でありました。

しかし、人物画と言っても・・・男なんか描くのイヤだし・・・かといって、

携帯電話片手の茶髪娘なんかも描きたくありません・・・・

現実の人物に、興味は持てなかった・・・・

そこへ、源氏物語・・・です。正に、おあつらえむき・・・・



つづく・・・・・




posted by 絵師天山 at 00:34| Comment(0) | 伊勢神宮奉納記念展

2014年02月13日

続 松山展ギャラリートーク

ギャラリートークつづき・・・・・


・・・おそらく・・口伝の始まりは古事記から・・・

口伝というものがいったいいつから始まったのか分からないが、

桃太郎のお話がいつから伝わってきたのかわからないのと同じく・・・いや・・

桃太郎に比すべくもないくらい丁重に大切に口伝されてきたに違いないんです。

何しろ、唯一無二。日本国家のアイデンティティーそのもの・・・ですから、


犯すべからざる口伝であったに相違ありません。

現在でも古事記を音読するとわかりますが、韻を踏んでいて

とても口ずさみ易い、心地よい文章です。


アメツチノハジメノトキ タカマノハラニナリマセルカミノミナハ・・

アメノミナカヌシノカミ ツギニタカミムスビノカミ ツギニカミムスビノカミ

・・・・・・・・・


それは、まるで和歌の連なり・・・の様・・・。

漢字表記ですが、始めは稗田阿礼によるヤマト言葉による口伝ですから、

流麗なのはむしろ当然のことなんですが、・・・・

勅命によって、太安万侶が編纂したのは

ヤマト言葉を漢字に置き換えるという、もともと無理な作業でありました。

即ち・・・・音読み、を、強引に漢字に当てはめるので、矛盾が生まれる。

音だけを忠実に守れば意味が通じないし、意味を重視すると韻を踏めない・・

その矛盾をできるだけおさえてヤマト言葉の美しさを損なわないようにした。

さらに言葉の意味も損なわないよう表記した・・・・

太安万侶の天才が・・・そう、させた。・・・・

意味も音も両方正しく伝える・・・・ホントに・・・

あり得ないくらい大変・・・素晴らしいことでした。

さらに、太安万侶様による序文があり、

この展覧会には、私の手でこの序文を書き、掛け軸としてご覧いただきますが・・



IMG_0694.JPG



これぞ、まさしく、言語に絶する名文であります。

シン ヤスマロ モウス ソレ コンゲン スデニ コリテ キショウ イマダ

アラワレズ ナモナク ワザモナシ タレカ ソノカタチヲ シラム・・・・・



名文と言えば方丈記とか、奥の細道、とか、平家物語、古今集序とか・・・

数多、日本の文学史には登場して来ますが、文字通り、優るとも劣らないのが、この

太安万侶様による、・・・・古事記序文なんです。

しかし、残念なことに、漢字の羅列なので一般人には取っ付きにくい。

ひらがなで書いてあれば取りつき易くはなるけれど、意味が分からなくなる・・

音だけでは深いところは伝わらないからですね・・・

それで、後の時代の人は、混乱したんです。

ついには古事記はねつ造・・偽書!!

と断定する輩さえ現れた。・・・が、そこに登場したのが本居宣長でした。


宣長翁は、太安万侶様のレベルの高さを最大限に理解した初めての人・・でしょう。



歴史のチリに埋もれそうになっていた古事記に着目し、原本すらなく、中途半端な

漢字表記しか残されていない文章にヤマト言葉の美しさを損なわないような

【ルビ】を与えた。

さらに、江戸時代にはもう分らなくなった言葉の意味解釈を念入りに加えた。

そして、ただの≪おとぎ話≫・・・とまで貶められていた古事記を、

その元つ姿に・・・・・・取り戻したのであります。


それには膨大な研究が必要だった。

まず、ヤマト言葉がそのままのこっている万葉集を徹底的に研究した。

なにしろ4500首もあり、天皇から平民まであらゆる人々の心が込められている、

いわば、感動の集積ですから、既に使われなくなって久しい

ヤマト言葉の習熟にはもってこい。デス

その上で、今度は源氏物語を学んで、さらなる世界・・・

国風文化の集積を参考にし、その上で、古事記を正しく読み解いたのです。

様々な誤った解釈・・・・つまりは歴史のねつ造になる諸説を全部排除して、

太安万侶の理想を・・・・宣長がさらに上乗せしたわけですね。

古事記を編纂し序文を表わした太安万侶様以上に素晴らしいのは、

江戸時代に現れた不世出の大天才本居宣長であります。

とても人間技とは思えない・・・段違いの業績であります。



宣長翁はそれを自腹でやった・・・・

【古事記伝】として製本したのも自費で、

30年以上の月日が費やされています。生涯かけて・・・誠心誠意・・・


この、【日本神代絵巻】 を描くについては、まず、宣長の古事記伝を読むこと。

これが最初の私の仕事でした。

古事記の原文を読んでも良く理解できない。し、

現代文に要約され薄まった古事記もどき・・では役に立たない。

精密な解釈、美しい韻、すべてを味わえてもまだまだ足りないでしょうが、

とにかく宣長翁に、“おんぶ、と、だっこ”するところから始めるしかなかったのです。





posted by 絵師天山 at 17:44| Comment(0) | 伊勢神宮奉納記念展

2014年02月12日

松山展ギャラリートーク



  伊勢神宮式年遷宮奉納記念 日本神代絵巻公開 

    イン松山
  
   高橋天山日本画展
       
        ー和歌が奏でる日本の物語ー



 会期 2014年2月11日(火祝日)〜16日(日)
 
 会場 松山三越6階美術ギャラリー <最終日は午後5時閉場>


 ギャラリートーク 2月11日(建国記念日) 午後2時より

 紀元節のこの日、まだ寒さ厳しい中お越しくださった方々へ、

 日本文化の真実についてホンの少し、語らせていただきました。






092.JPG




105.JPG





紀元節・紀元祭 (きげんせつ・きげんさい)

橿原神宮は、近鉄吉野線と大阪線とが交差する橿原神宮前駅から徒歩数分、

畝傍山を背景に鎮座ましまし、言うまでもなく、

神武天皇を主祭神とした官幣大社であります。

明治大帝の勅により明治22年橿原宮址地に創建されました。

毎年2月11日は例祭に当たり、勅使をお迎へしての紀元祭が斎行されます。

今から2674年前、初代の天皇陛下である神武天皇が日本の国を平定され、

天皇の御位に即かれた日です。

神武天皇の建てられた日本国が、天皇のご子孫の一系の天子を仰いで、

2674年の歴史を続けているということは、世界の歴史の不思議でありますが、

実にこれが日本の真実の姿です。

自然の恩恵と共に、そのきびしい試練を受け、一つの民族として、

一億を超える人口が共通した一つの国語で語り合い、

数千年の先祖の無数の文物を、風光明媚の国土至る所に保存してきたことは、

まことに比類ない世界史の脅威であります。

そして、その淵源は実に、神武天皇の建国にあるのです。

この度、第62回伊勢神宮式年遷宮に際しまして、古事記絵巻を描き【日本神代絵巻】

として奉納させていただくこととなり、この松山の地で建国の記念日にこうして

お話させていただけることは誠にありがたいことでございます・・・・。



 

他国に比を見ない歴史をもつ日本ですが、【歴史】、と一口に申しましても、

その大半は勝者の歴史なのです。

勝ち組となって自分の都合の良いように文書として遺した・・・・モノが、歴史。

とされてきました。悪く言えばねつ造の連続です。

同じ事実でも立場や考え方が違えば、まったく異質な事柄に変貌してしまいます。

例えば、こちら松山には【坂の上の雲ミュージアム】があり、かの司馬遼太郎さんで有名ですが、

秋山好古、真之兄弟と正岡子規など、松山の人々にスポットライトを当てて、

明治という時代を大きく語った、それ故にこちらにミュージアムまで造られ記念館としています。

が、必ずしも歴史の真実は語られてはいません。

日清日露両戦役を越えて、日本を近代国家たらしめたのは、明治大帝であります。

明治大帝のご存在・・・・・・

明治天皇の偉大さがなければ、・・・たとえ国民一丸となっても、

日本国家は、今日を迎えることはできませんでした。

司馬遼太郎氏は、そのことについては一言も語ってはいないのです。

一世を風靡した小説【坂の上の雲】も、立派な歴史小説とみなされてはいますが、

決して正真正銘の史実ではなく、脚色、創作で成り立っています。

つまりは、ご自分の都合の良い様に歴史を語った。・・・と言っても良い。

厳密に言えば歴史のねつ造であります。

明治神宮で参拝しおみくじを引くと、普通の神社のような大吉、小吉・・

ではなくて、明治大帝の御製、と昭憲皇太后 の御製がつづられています。

心にしみる、格調高き、素晴らしい和歌の数々・・・

明治天皇の偉大さはこの御製だけ取り上げてもすぐに、誰にでも、わかります。

60年のご生涯のうち詠まれた和歌の数、ナント・・10万首・・・

明治の歌人として有名な斎藤茂吉でも、生涯の作品数は2万に及ばない。

昭憲皇太后さまも3万首以上御製があると聞きます。

つまり、創作力だけに絞っても、明治大帝の英傑ぶりは司馬遼太郎の比ではありません。


NHKの大河ドラマの黒田 官兵衛にしても、事実、実際に戦国時代に生きた人だが、

その描き方でどのような人柄にも描ける・・・・ので、その脚色を楽しむのは

別に問題とはなりませんが、それを真実として扱うと・・・

これは、大問題になりかねない。



戦国時代を扱った時代小説は数限りなくありまして、信長、秀吉、家康・・

大変人気がありますね。

沢山の小説家がその時代の文書などを研究して

その知識の上から戦国時代小説が数多生まれてきたのですが、

その知識の元になったのは【信長公記(しんちょうこうき)】と言う書物です。

言うまでもなく織田信長公のご事績をつづった文書。

この書物が実は、・・・・

信長公の亡きあと、天下人となって大いに奢った豊臣秀吉の命によって書かれたのであります。

信長公の偉大さをご自分の都合のよいように・・・描いた。

秀吉の肖像画がかなり多数各地に残っておりまして、そのいずれもが華美なまでの表現。

ずいぶん立派に、・・・必要以上に美々しく描かれておりまして、

それに反して、信長公の肖像画は数も少ないし、何れも質素。

謹厳実直な感じに描かれておりまして、華美華麗なる秀吉像とは大違いなんですね。

つまり、ありがちな・・・功成り名遂げた人がそれを自慢げにヒケラカス風の・・・

私は絵師ですから、描かされた側の気持ちがよくわかり、

秀吉像を描かされた絵師たちは随分苦労したことでしょう。

下手すると首が飛ぶ・・・・

信長公が何を目指していたのか、・・・・

それは、遺された謹厳実直な肖像画が正直に語っております。

伊勢神宮の式年遷宮は62回を迎え20年に一度ですから単純計算してもざっと、1200年

・・・・・実は、諸事情で式年遷宮が行われない時代もあり、それは室町幕府の時代。

応仁の乱 以後、日本がめちゃくちゃになった悲惨な時代でした。

その途絶えていた式年遷宮を再興したのは信長公なんですね。

漁夫の利を得た秀吉は増長・・・自分を偉く見せることで頭がいっぱいでした。

信長公のご事績を上辺だけ踏襲しながら、良いことは俺様がやったのだ・・

信長の欠点を補ったのは俺様・・・・・と、実は

ご自分の都合のよいように周囲を巻き込み、日本を食い物にした、・・・・・・

やりたい放題で死んだから、子孫は絶滅したんです。

ずいぶん恨まれてたんでしょうね、・・・・・本当は。

・・・・信長公記は偽書であります。

正確なる真実を必ずしも語ってはいないから・・・。

それを基にして、近現代の小説家が描いた戦国時代小説を我々は楽しんで来ました、

面白く読んで好き勝手に感想を述べて来た・・・・んですが・・・・

つまりはねつ造された歴史を元にして・・・・語っても・・・・・・・ねー。



・・・・古事記はもう【ねつ造】しようがないほど、古い。世界最古の書であります。

正確には≪書≫になったのは今から1302年前、太安万侶によって編纂されてからですが

それまでは口伝だった。

書物は紙、物質ですからかならずいつかは消滅する。

そこへゆくと口伝と言うのは超アナログですがこれほど確かな伝承方法はありません。

生きた人から人へ伝えるのですから、これほど確実なる手段も他にはない。

当時、稗田阿礼という賢者が古事記全文を暗唱していた。

そのヤマト言葉の暗唱・・・にたいして太安万侶は漢字を充てて行ったのが、

今日に伝わる・・・・いわゆる・・・古事記・・・であります。

どのくらい前から存在していたのかさえ分からない、

古い古−−−−−−い・・・・もの。




以下続く・・・・・・





posted by 絵師天山 at 18:50| Comment(0) | 伊勢神宮奉納記念展

日本画家・高橋天山のブログ 絵師、天山が語る、日本画とは? イザブログについて



199.JPG





日本画家・高橋天山のブログ

絵師、天山が語る、日本画とは?


157.JPG

と題して、2010年から続けて来ましたイザブログが、

この春無くなります。

・・・・・・・・誠に勝手ながら、2014年3月末をもちまして、

イザ!の会員向けサービスは終了

させていただくことになりました。

長い間のご愛顧ありがとうございました
。・・とのこと,

産経さんの都合です。


これまで4年足らずの短い期間でしたが、

没後百年菱田春草(32)

大和絵(128)

太平記と大和絵(27)

武者絵(35)

現代の大和絵(43)

伊勢神宮奉納記念展  (50)

創作といふこと(8)  

・・・・・等々、日本を取り戻す!との願いで、

日本画の周辺について頑張って書いて参りました、

たとえ少数でも読んでくださる方がいればこそ。

本当に御愛読ありがとうございました。

引き続きこちらのブログにて語り続けてまいりますので又改めまして、

どうぞ宜しくお願い致します。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★






001.JPG




タグ:イザブログ
posted by 絵師天山 at 17:55| Comment(4) | 伊勢神宮奉納記念展

2013年02月03日

古事記伝 三大考 その2


【三大考】 続き

然云ふ(シカイウ)故(ユエ)は、近き代になりて、

遥かに西なる国々の虚空(ソラ)に浮かべるを、

日月は其の上下へ旋(メグ)ることなど、考へ得たるに

彼の漢国の古き説どもは、皆いたく違へることの多きを以って、

すべて理を以っておしあてに定むることの、信(ウケ)がたきをさとるべし


然るに皇国の古伝説(イニシエノツタへゴト)は、

初めに虚中(オホソラ)に一ツノ物の成れりしより、

つぎつぎ其の云えることども、凡て今の現(ウツツ)のありかたに、

合わせ考えるに、いささかもたがふことなし、これを以っても、

古(イニシエ)の伝えの、真(マコト)なることは知るべき也、


さてかの遥かの西国の人は、右の如く、此の大地のありかたを、

よく見きはめ、又大虚空(オホソラ)なることどもをも、

なほくさぐさ精密(コマカ)に考得て、漢人(モロコシビト)の説とは、

はるかに勝れることども多けれども、それもなほ、

測算(ハカリワザ)お及ぶ限りにこそあれ、

其の及ばぬ所は今の現(ウツツ)の事だに、

なほ知り尽すことあたはざること多ければ、まして大地日月などの、

かくのごとく成れる初めは、知るべきやうなし、


思ふに、其の国々にも、各其の説は有るべけれども、

それも又皆例の後の人のおしはかりにて、かの天竺或いは、

漢国の説どものたぐひにぞあるべき、皇国の伝へは、さらに其の類に非ず、

先づ皇国は、神ながら言挙げせぬ国と云いて、萬の事、外国の如く、

かしこげに言痛(コチタ)く、論(アゲツラ)ひさだすることなく、

ただ大らかなる御国ぶりなるが故に、天地の初めの説なども、

外国の説どもの如く、これは此の故にかくのごとし、


それは云々(しかじか)の理によりて、かくの如しなどやうに、

細かにこちたく、説諭(トキサト)したる物にはあらず、

ただ有りしさまのままを、おほらかに語り伝へらるのみ也、


然れども上代に、いまだ外国の説どもの、来たり雑(マジハ)らざりしほどは、

世の人みな、古の伝説を守りて、さらに異なる論ひもなかりしかば、

又殊に論ふべきこともなかりしに、後に外国のこざかしくこちたき説ども、

入り来たり、まじりては、人いな其の説どもの、

うはべの言美(コトヨ)きに惑ひて、古の伝説の趣をば、忘れ果てて、

ひたぶるに外国の説にのみ依ることとぞなりにける


されば神の御書を説く人も、みなその外国の説にのみまつはれて、

いにしへの趣を得たる人は、よよに一人もなかりけり、

ここに吾が本居の大人、、

はやくそのひがことなることをさとりて、いささかも外国の意をまじへず、

専ら皇国の古伝に依りて、そのおもむきを委曲(ツバラ)に考得て、

古事記伝を著し給へるにぞ


神代よりの伝への趣は、ふたたび世に明らけくなりにける、

中庸をぢなき身なれども、神の御霊の幸ひ厚くて、此の大人の同じ郷にさへ生まれて、

務めのいとまには、まのあたりその教えを受けて、

正しきことの道の片端をも、窺ふことを得たり、



かくて此の天地の初めのさま、又そのありかたなど、

かの古事記伝によりて、古伝説の趣を見るに、さらに人の造り云える、

彼の外国(トツクニ)の妄説(ミダリゴト)どもの、及ぶところにあらず、

真(マコト)にかぎりなく深く妙なる味わひありて、

神代の伝説の、世にすぐれて尊きことを悟りぬ、
 

如此(カク)して又いささか己が思ひよれることどもも有りけるを、

大人に申し試みければ、あしくもあらぬさまに、許諾(ユル)し給へるままに、

其の次第(ツギツギ)のおもむきを、十箇(トヲ)の図(カタ)にかきあらはし、

其のことわりを書き添えて、一巻となし、三大考と名つけつ、

 三大は、天地(アメツチ)泉(ヨミ)の三つなり、

これを大と云わむは、漢(カラ)めきたれど、書の名なれば、

さてもあへなむか、さて其のあるやう、彼のなまさかしき理もて云える、

外国ざまの説は、すべて取らず、もはら皇国の伝えに随ひ、

其の説は、すべての事は、古事記伝に依れり、

されば大かたは、彼の書に委ねて、こまかにはいわず、
 

かの書を看て心得べし、日ごろただ漢意(カラゴコロ)の説にのみなれたる人、

いぶかることなかれ、

          
 寛政三年辛丑五月         伊勢人服部中庸







 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



     
 本年10月30日より11月5日まで、東京日本橋の三越本店画廊にて、
 伊勢神宮奉納記念展 (高橋天山個展)が開催されます。









posted by 絵師天山 at 15:47| Comment(0) | 伊勢神宮奉納記念展

2013年01月22日

古事記伝 三大考 その1


 【三大考】 その1


古事記上巻、と漢字で書いて、本居宣長が付したルビは・・・
フルコトブミウエツマキ、・・・・これは、出来るだけ漢文調から離れて、大和言葉の意味と美しさを残そうとした結果なんです。

古事記伝の上巻終りに、上巻全体への深い洞察が成された【三大考】という小論があり、これは古事記伝中の白眉。

まず、この驚くべき文章をご覧いただきましょう。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



天地国土(アメツチクニ)のありかた、其ノ成れる初メのさまなど、外国(トツクニ)の説どもは、いはゆる仏にもあれ、皆己が心を以て、智(サトリ)の及ぶだけ考へ度(ハカ)りて、必ズ如此(カク)あるべき理ぞと、おしあてに定めて、造りいへるものなり、

其中に天竺ノ国の説などは、ただ世の女童(オミナワラワ)を欺くが如き、妄説(ミダリゴト)なれば、論(アゲツラ)ふにも足らず、

又、漢国(モロコシノクニ)の説などは、何れもやや物の理を深く考へて、造れる物なれば、打聞くには、げにもと信(ウケ)らるるが如くなれども、よく思へば、其ノ太極無極陰陽八卦五行など云ふ理は、もと無きことなるを、此方(コチラ)より其ノ名どもを作り設けて、何事にも是を当てて、天地万物皆、これらの理によりて成れる如く、 これらの理をはなるることなきが如く云ひなしたる物にて、是も亦妄説(ミダリゴト)也、

すべて物の理は、きはまりなきことにて、さらに人の智の度(ハカ)りつくすべき限リに非(アラザ)れば、理をもって言う説は、信(ウケ)られず、人の考へて知るべきは、ただ目の及ぶ限り、心の及ぶ限り、測量(ハカリワザ)の及ぶ限りこそあれ、その及ばざる所に至りては、いかに考へても、知るべき由なし。

然れば此の天地の成れる初め、又かくの如く成(ナリ)おへたる、つぎつぎのさまなども、八百万(ヤオヨロズ)千万歳(チヨロズ)の後に生まれたる人、いかでか其の初めをよく知ることのあらむ、

ここに吾が天皇大御国(スメラミコトのオホミクニ)は、殊に伊邪那岐伊邪那美二柱大神(イザナギイザナミフタハシラノオオカミ)の生み成し賜へる御国、天照大御神の生坐(アレマセ)る御国、皇御孫尊(スメミマノミコト)の、天地と共に、遠長(トホナガ)に所知看(シロシメス)御国にして、万国に秀で勝れて、四海の宗国たるが故に、人の心も直く正しくして、外国(トツクニ)の如く、さくじり偽(イツワ)ることなかりし故にや、

天地の初めの事なども、正しき実(マコト)の説有(アリ)て、いささかも私のさかしらを加ふることなく、ありのまにまに、神代より伝わり来にける、
 
これぞ虚偽(イツワリ)なき、真(マコト)の説には有ける、

そもそも、彼の漢国(モロコシノクニ)の説などは、これを聞くに、理深く聞こえて、信(マコト)に然るべしと思はれ、皇国の伝へは、いと浅はかに、何の理も無きが如く聞こゆれども、彼は妄説(ミダリゴト)、此は真実(マコト)なる故に、後世に至り、もろもろの考へ、精(クワシ)くなるに随ひて、かの虚妄説(ミダリゴト)どもは、やうやうにその非(ヒガゴト)の顕れゆくを、此の真(マコト)の伝えは、違ふことなし、



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


もっともらしいことを言う外国の説は、これスベテ、妄言・・・

と言ってるんです。ネ

この世の成り立ちについて言ってる事は、仏教にしろ、易学にしろ・・・インド哲学にしろ・・・・ナンであれ、外国人の言ってる事は全部ウソっぱち!!

かなりハイグレードなる檄文なんです!!


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


本年10月30日より11月5日まで、東京日本橋の三越本店画廊にて、伊勢神宮奉納記念展 (高橋天山個展)が開催されます。








posted by 絵師天山 at 19:59| Comment(0) | 伊勢神宮奉納記念展

2013年01月20日

本居宣長、古事記伝


古事記が日本の神話であることは誰でも良く知っていますが、

古事記が今に遺されて来たことは、

江戸時代の本居宣長の研究に拠るところが大きいのです。

宣長翁の業績がなければ、日本神話も歴史のチリに埋もれてしまったかもしれません。

古事記の真価を誰よりも深く知った上で、ルビを付けて分かりやすい読み下し文とし、

その精密な解説を試みたのでした。


その試みは大成功したばかりでなく、

翁の研究がなければ、古事記の真価も分からずじまいで、

ひいては日本のアイデンティティーさえ怪しくなるほど。


そのことを現在の教育では全く採り上げません。


古事記すら教科書には載っていない有様。


世界中探してもありえないほどの豊穣な神話世界があるのに、

自虐史観に囚われた人が社会の中枢を占めているので、

日本人でありながら日本の真価がわからないようにされてしまってきたのです。



本居宣長翁渾身の傑作【古事記伝】が不朽の名作と言われるのも当然。

世界に類のない書物を現代に蘇らせたからです。



【日本神代絵巻】を制作するに当たってまず、

古事記伝を精読しました。・・・・

もっとも上代の巻だけを絵画化する予定ですから、全巻読みきった訳ではありませんが・・・





添付写真は習作の部分、冒頭の伊邪那岐命、伊邪那美命、二神(ふたはしら)のお姿です。

IMG_0749.JPG







本年10月30日より11月5日まで、東京日本橋の三越本店画廊にて、

伊勢神宮奉納記念展 (高橋天山個展)が開催されます。




posted by 絵師天山 at 13:00| Comment(0) | 伊勢神宮奉納記念展

2013年01月19日

第62回伊勢神宮式年遷宮を迎えて

平成25年 癸巳 

皇紀2673年
いよいよ第62回伊勢神宮御遷宮の式年を迎えました。




108.JPG




昨年は古事記選上、千三百年の記念年であり、明治天皇百年祭でありましたが、今年十月、伊勢において皇大神宮、続けて豊受大神宮の御遷宮が斎行されます。二十年に一度の所謂、式年を迎えたのであります。

御遷宮の儀は伊勢のみならず、出雲大社も今年、六十年に一度という式年を迎え、御神体として草薙の剣を祀るお宮である熱田神宮でも、この剣を佩びて東征の旅を果たされた御祭神、日本武尊の薨去千九百年祭に当たり、同時に式年を迎えられる訳であります。

これに先立ち、平成二十年、今上陛下ご在位20周年の佳き年を記念としまして【日本神代絵巻】及び【伊勢神宮式年遷宮絵巻】二副の絵巻を描くことに致し、以来研究を続けて参りました。

我が日本は、古事記神代の神話世界が、今日只今まで、式年遷宮という尊い行事によって連綿と続いているという事実。
我が日本国民は天孫降臨によって神々と固く結びついた神裔であると言う事実を、些かでも日本国民に呼び覚ます事が出来る事を節に願うものであります。

本年10月30日より11月5日まで、明治節をはさんだ一週間東京日本橋の三越本店画廊にて、【日本神代絵巻】を初公開し、その後、伊勢神宮徴古館に奉納させていただきます。
(式年遷宮絵巻はその後の謹製となります)

“日本神代絵巻” 謹製の制作課程、歴史テーマの作品制作課程等をご覧いただきながら、
〜和歌による日本の歴史〜と副題する私の個展の広報をして参ります。

折々にご高覧いただければ幸甚です。




添付写真は、習作絵巻の外観です・・・


IMG_1591.JPG










posted by 絵師天山 at 23:20| Comment(5) | 伊勢神宮奉納記念展

2012年12月27日

個展打ち合わせ


来年は式年遷宮年。

伊勢神宮は大賑わいとなりましょう・・・

【日本神代絵巻 (やまとしんだいえまき)】は古事記の上代編を絵巻物に、
 
そして、遷宮を実感させて頂いた後に、

【式年遷宮絵巻】も描いて、対となし、双方20メートル超!!

つまり

この対の絵巻物は、

過去と現在とが一貫して脈々と活きている神話のさきはえる日本。


神国日本の素晴らしさを後の世に伝える・・・と言う壮大な構想・・・。デス

正倉院の御物みたいな宝物にしようと狙っているんです!



三越美術部の担当中村氏、井塚さん・・笑顔!!



絵巻お披露目個展の打ち合わせが進みます・・・




312685_340479736059517_1428307928_n.jpg






posted by 絵師天山 at 00:06| Comment(0) | 伊勢神宮奉納記念展

2012年12月26日

奉納記念展の打ち合わせ

来年、秋。 

第62回伊勢神宮式年遷宮を記念して古事記を絵巻に描き、

奉納させて頂きます。

絵巻物の画題は、【日本神代絵巻】

このご奉納を記念して、日本橋三越本店で個展を開催いたします。

今日は、三越美術部の担当してくださる中村さん、と、井塚さんが、拙宅にお越しくださいました。

平成25年10月30日〜11月5日まで、文化の日をはさんで一週間です。
巡回展の日取りはこれから・・・

笑顔で優しい中村さんは、もう何度も来ていただいてますが、美人の井塚さんは、初めて・・・・とってもキュートな方です!



004.JPG



posted by 絵師天山 at 23:59| Comment(0) | 伊勢神宮奉納記念展