2014年06月07日

魅惑の春草 B

 

        otiba1.jpg



              otiba2.jpg






【生死に離れざれば何事も役に立たず】


命がけ!!で、なければ、ホントは・・・・何の役にも立ちません・・ヨ・・

と言う意味の金言です・・・









春草は失明の可能性を体で感じたとき、・・・・

絵師としての、画家生命の、終焉を本気で考えざるを得ませんでした。

幼な子もまだ、幾人もいるし、美しい妻もまだまだ若い。


若くして、初手から、気の抜けたような半端な仕事を、

そんな生ぬるい制作は・・・断じて遺さない!

という気概に燃えていた春草であります。


先輩の作品や、古典的絵画、外国の絵画・・・など

少しでもおかしなところは 容赦なく批判し、

その裏付けとして、・・・・

自己の作品によってその批判を見事に実証して見せ・・・

ずっとその姿勢を貫いて来ました。


周囲は、もう、だれも・・・・彼を批判出来ようはずもなく、

敬意、どころか正直、・・畏怖さえ感じていたかも知れません。

年長者であり、学校でも一級上の大天才、横山大観でさえ

春草を師として扱う程の敬心が・・・確かにあったです。



自分が自分を批判して行くしかない。

自分より以上の存在は、現存していない。

自分が自分の先生であらなければならない・・・・

駆り立てられるかのように、猛進し続けてきたのです・・

挙句・・・・、

誰にも、もう教えようがない、生きている人からはもう何も学べない・・・

これは、

頂点に立っている者のみが知る苦悩であります。

いや、春草の場合は苦悩などではなく・・・むしろ

楽しみ?!  であったのかも知れません。

それほどの、大天才。

が、・・・・しかし・・・・


目が見えなくなる!!!


この理不尽!


なぜ!!!なんで!!!!どうして!!!!!!!


彼は何を思い何を感じたでありましょう・・・


周囲からは夜逃げ! と言われた茨木県五浦での断固たる研鑽の日々・・・から

病を得て、東京へ戻り、代々木に居を定めての療養生活。

今の代々木公園のあたり・・・・

まだ武蔵野の面影が十分残っていました。




命の灯が消えようと・・・失明のどん底が近づいて・・・

万事窮した心・・・・・行き場さえない・・・持て余すほどの懊悩、



五浦は海浜。雄大で太平洋に面した茫洋たる大空間でありました。

天も海も茫漠と広がる・・・・

それに比べ、代々木の森は・・・何ということもない、

特別なものは何もない、こじんまりとした・・・雑木林。


しかし大天才の持て余すばかりの心は・・静かなる木立の野に於いて

その何でもないさりげなさに・・・・

物言わぬ、変わらない景色に・・・・・

ずっと、繰り返し続けられてきた、

何事も無かったような小さな命の営みに・・・

その凡庸さに

知らず識らず・・癒されていったのでありましょう。


また明日もこのまま佇立しているであろう木立を仰いで

また明日も落ちて風に吹かれるであろう落葉を見つめて

梢を揺らす野鳥の声に耳を傾けて・・・その羽音に耳を澄ませて


淡々とした・・・・かわらない、当たり前の如き、日常事が

深深と・・・・心の奥の・・・奥の、奥底に響いて来たのです。


定まった覚悟は、却って心の平安をもたらした?!  かの・・・様に


最晩年の鎮かなる名作が続々生まれます。



夫の命の火が消えてしまう危うい毎日を暮らした妻 千代は、

世界一不幸だったかもしれないけれど

目の前で世界一の名作、傑作が産まれる、という奇跡的な幸せに・・・恵まれました。


“この人は、ホントに・・・・素晴らしい絵を描く・・・”







【生死に離れざれば何事も役に立たず】






       IMG_1763.JPG




            IMG_1762.JPG 


         鴉と雀屏風






 

部分      

IMG_3797.JPG





IMG_3794.JPG






  福井県立美術館の落葉屏風





         otiba3.jpg






               IMG_1752.JPG


















posted by 絵師天山 at 00:30| Comment(0) | 菱田春草
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: