【中納言家持】 ちゅうなごんやかもち =大伴家持
鵲の渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける
かささぎのわたせるはしにおくしものしろきをみればよぞふけにける
鵲(かささぎ)という鳥は、天の河にその翼を並べて、
織姫星を牽牛星(彦星)の元に渡す。・・・・・
と言う古いロマンティックな言い伝えがあり、
恋人の仲を取り持つので、かささぎ=橋。(橋渡し)
“鵲の渡せる”・・・は橋に掛かる序詞。
序詞とは枕詞の長いやつ・・・と、思えば良いでしょう。
昔編に鳥と書いて、カササギ・・・・・
面白い古風な漢字ですね・・・
あえて、口語訳してしまえば・・
鵲が天の河に渡した橋にも例えられる
宮中の御橋に降りている霜の真っ白なのをみると、
大分夜も更けたのだなあ・・・・
というツマラナサ。味わいも何も・・・・
が、しかし、何度も口ずさんでみれば
単純な口語訳では表せない深い余韻を誰しも感じるでしょう。
万葉集全4500首の内、480首がこの大伴家持の和歌。
万葉集を編纂した人であるともされ、大伴旅人は、父上。
さらに、ご先祖を辿れば・・・
天忍日命(アメノオシヒノミコト)と言う、
天孫邇邇芸命(ににぎのみこと)の降臨に際して、お伴した武人。
大伴家は文武両道を兼ね備えた家系として栄え、
常に天皇家を命に代えてお守りする立場でした。
家持も父旅人に劣らぬ歌詠み名人、
繊細かつ荘重なる和歌を数多詠じています。
冬空の天の河を見て、その冴え冴えとした様を
天上に置かれた霜か?・・・と眺め、目を地上に戻せば、
橋の上に置かれたホンモノの霜、・・・沈沈として夜は更けてゆく・・・・、
故事を知った上で冬の天の河を眺め、鵲の渡せる橋、と、霜、とが揃えば
自動的に壮大なるイメージが展開する、・・という仕掛けですね。
天の河を霜に例えるだけでなく、鳥の羽交(はがい)に霜が降りる・・・
という発想も加わっており、それらを七夕伝説に繋いで想起させる・・・
冬なのに七夕をも感じさせ、・・・・
素晴らしい・・・・・・
ナントもココロニクイ工夫が成されているんです。
さらに、下の句で“白さを見れば夜ぞ更けにける”とあり、
霜気が満ちて夜が白む・・・と感じるのは実際にはもう明け方近い時間なのに
却って夜の深さを感じさせてしまう、・・・・・・・・・。
一ひねりも二ひねりもされていて、深い深い想像を湧きたててくれる。
実に実に、これぞ名歌。であります。