【猿丸大夫】 さるまるたゆう
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき
おくやまにもみじふみわけなくしかのこえきくときぞあきはかなしき

もののあはれ は秋に集約されるとか・・・・
秋こそ人の心が深く研ぎ澄まされて、時に感傷的になるのかも知れませんね。
それは、鹿も同じ。???
紅葉の山々に取材していると、
牡鹿の遠鳴きが耳に飛び込んでくることがあります。
雌鹿を求めてか? ・・・・・・山霧を射通す様な鋭い鳴き声です。
じーっと、スケッチしている私に気がついて、警戒・・・・
秋の山は実に良いものであります・・・
もうその頃になれば夜は冷え込んで、余計にぬくもりが欲しくなるものなのでしょう。
そんな気分を「悲しい」・・・と言ったのでしょうか。
澄み切った鳴き声に秋が深まる予感を響かせたこの名歌の作者は
猿丸大夫。
猿丸が名で、大夫は五位の称号です。
実在の人かどうかも危ぶまれ、伝説上の歌人とされてしまう事もあって、
例えば、人麿や赤人の様に、天皇の行幸に随行したくらい
はっきりとした身分の歌人ではなくて、
ちょっと遊び心の豊かな趣味人?
趣味人の詠じた歌であるならば、
その作者の素生についてどうこうと言う世間も広がらなかったのかもしれません。
が、しかし、思いつきで謳ったにしては余りに深い興趣をたたえており
ひとたび吟じてみれば、忘れられなくなること請け合い。
秋の陽はつるべ落とし、・・・・深みゆく秋の山は
すぐに夜長へと導かれてしまう・・・・
そんな侘しさが、人恋うる心に通じ、
期せずして共感を催してしまうのでありましょう。