2014年02月13日

続 松山展ギャラリートーク

ギャラリートークつづき・・・・・


・・・おそらく・・口伝の始まりは古事記から・・・

口伝というものがいったいいつから始まったのか分からないが、

桃太郎のお話がいつから伝わってきたのかわからないのと同じく・・・いや・・

桃太郎に比すべくもないくらい丁重に大切に口伝されてきたに違いないんです。

何しろ、唯一無二。日本国家のアイデンティティーそのもの・・・ですから、


犯すべからざる口伝であったに相違ありません。

現在でも古事記を音読するとわかりますが、韻を踏んでいて

とても口ずさみ易い、心地よい文章です。


アメツチノハジメノトキ タカマノハラニナリマセルカミノミナハ・・

アメノミナカヌシノカミ ツギニタカミムスビノカミ ツギニカミムスビノカミ

・・・・・・・・・


それは、まるで和歌の連なり・・・の様・・・。

漢字表記ですが、始めは稗田阿礼によるヤマト言葉による口伝ですから、

流麗なのはむしろ当然のことなんですが、・・・・

勅命によって、太安万侶が編纂したのは

ヤマト言葉を漢字に置き換えるという、もともと無理な作業でありました。

即ち・・・・音読み、を、強引に漢字に当てはめるので、矛盾が生まれる。

音だけを忠実に守れば意味が通じないし、意味を重視すると韻を踏めない・・

その矛盾をできるだけおさえてヤマト言葉の美しさを損なわないようにした。

さらに言葉の意味も損なわないよう表記した・・・・

太安万侶の天才が・・・そう、させた。・・・・

意味も音も両方正しく伝える・・・・ホントに・・・

あり得ないくらい大変・・・素晴らしいことでした。

さらに、太安万侶様による序文があり、

この展覧会には、私の手でこの序文を書き、掛け軸としてご覧いただきますが・・



IMG_0694.JPG



これぞ、まさしく、言語に絶する名文であります。

シン ヤスマロ モウス ソレ コンゲン スデニ コリテ キショウ イマダ

アラワレズ ナモナク ワザモナシ タレカ ソノカタチヲ シラム・・・・・



名文と言えば方丈記とか、奥の細道、とか、平家物語、古今集序とか・・・

数多、日本の文学史には登場して来ますが、文字通り、優るとも劣らないのが、この

太安万侶様による、・・・・古事記序文なんです。

しかし、残念なことに、漢字の羅列なので一般人には取っ付きにくい。

ひらがなで書いてあれば取りつき易くはなるけれど、意味が分からなくなる・・

音だけでは深いところは伝わらないからですね・・・

それで、後の時代の人は、混乱したんです。

ついには古事記はねつ造・・偽書!!

と断定する輩さえ現れた。・・・が、そこに登場したのが本居宣長でした。


宣長翁は、太安万侶様のレベルの高さを最大限に理解した初めての人・・でしょう。



歴史のチリに埋もれそうになっていた古事記に着目し、原本すらなく、中途半端な

漢字表記しか残されていない文章にヤマト言葉の美しさを損なわないような

【ルビ】を与えた。

さらに、江戸時代にはもう分らなくなった言葉の意味解釈を念入りに加えた。

そして、ただの≪おとぎ話≫・・・とまで貶められていた古事記を、

その元つ姿に・・・・・・取り戻したのであります。


それには膨大な研究が必要だった。

まず、ヤマト言葉がそのままのこっている万葉集を徹底的に研究した。

なにしろ4500首もあり、天皇から平民まであらゆる人々の心が込められている、

いわば、感動の集積ですから、既に使われなくなって久しい

ヤマト言葉の習熟にはもってこい。デス

その上で、今度は源氏物語を学んで、さらなる世界・・・

国風文化の集積を参考にし、その上で、古事記を正しく読み解いたのです。

様々な誤った解釈・・・・つまりは歴史のねつ造になる諸説を全部排除して、

太安万侶の理想を・・・・宣長がさらに上乗せしたわけですね。

古事記を編纂し序文を表わした太安万侶様以上に素晴らしいのは、

江戸時代に現れた不世出の大天才本居宣長であります。

とても人間技とは思えない・・・段違いの業績であります。



宣長翁はそれを自腹でやった・・・・

【古事記伝】として製本したのも自費で、

30年以上の月日が費やされています。生涯かけて・・・誠心誠意・・・


この、【日本神代絵巻】 を描くについては、まず、宣長の古事記伝を読むこと。

これが最初の私の仕事でした。

古事記の原文を読んでも良く理解できない。し、

現代文に要約され薄まった古事記もどき・・では役に立たない。

精密な解釈、美しい韻、すべてを味わえてもまだまだ足りないでしょうが、

とにかく宣長翁に、“おんぶ、と、だっこ”するところから始めるしかなかったのです。





posted by 絵師天山 at 17:44| Comment(0) | 伊勢神宮奉納記念展
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