聖徳記念絵画館 その3は、この作品から。
13 江戸開城談判(江戸城開け渡しの会談)
時 明治元年3月14日(1868年4月6日)
所 芝 田町鹿児島藩邸(東京)
奉納者 侯爵 西郷吉之助(さいごうきちのすけ)
伯爵 勝 精(かつくわし)
画家 結城素明(ゆうきそめい)
明治元年3月初め、大総督熾仁親王(たるひとしんのう)の率いる官軍は、江戸城にせまり、総攻撃の態勢を整えましたが、旧幕臣もこれを迎え討つ準備を着々と進めておりました。幕軍の代表安房守勝義那(あわのかみ かつよしくに=海舟)はこれを憂え、戦いを起こさないよう努力、官軍の大総督参謀西郷吉之助(隆盛)と芝田町の鹿児島藩邸で会談しました。この結果、江戸城の開け渡しが決定し、江戸市民は戦災を免れることができました。
絵は、西郷と勝が会談する光景です。
★
何とまあ、陳腐な絵ではありませんか!
おぢさんとおぢさんが・・・・
すすけた畳の部屋で対面しているだけ・・・・
慎ましさと、緊張感・・は漂うものの、
これと言って見どころは無く、
上記の説明文が無ければ
何の事か分からず
大した魅力も有りはしません。
歴史的瞬間というのはこんな風に
ナンでもない感じなのかもしれませんが、
それにしても、
写真や動画、映像文化に慣れ親しんでしまった現代人からすると、
何だか・・・・つまらん
確かに、よーっく観れば、細部にわたって良く描き込まれては・・・いますが、
歴史的瞬間な割に、ドラマチックな様子がそれほど・・・
感じられない・・・
作者の結城素明(ゆうきそめい)という画家が
ヘタクソなのか??
ウィキペディアによれば・・・
結城素明
東京本所荒井町に、「池田屋」という酒屋を営んでいた森田周助の次男として生まれる。本名の貞松は勝海舟の命名という。10歳の頃、親類の結城彦太郎の養嗣子となる。明治24年(1891年)7月岡倉覚三(天心)の紹介で、川端玉章の天真画塾に入門する。玉章に学びながら明治25年(1892年)東京美術学校日本画科に入学。常に墨斗と手帖を携帯し、目にとまったものは何でも写生したという。
27年(1894年)1月、素明は玉章の内弟子となった平福百穂と知り合い意気投合、両者に後年まで絵画技法上の共通性はないが、終生無二の親友として交友する。明治33年(1900年)无声会を結成、1904年東京美術学校助教授、1916年金鈴社結成に加わる。文展に出品、1913年教授、1919年東京女子高等師範学校教授兼任、1923年から英独仏へ留学、1925年帝国美術院会員、1937年帝国芸術院会員、1944年従三位・勲二等瑞宝章受章、1945年東京美術学校名誉教授。
作品
つまり、地位、からしても、名声から言っても
当代一流と言うに相応しい御方。
しかも、当の勝海舟から名前まで戴いた・・・
だのに、平凡さはぬぐえない駄作・・?
写実的絵画としては良いところまで行っているのですが、
この程度の写真的リアリティでは物足りない、
確かに写真から受け止められる感じを越えてはいるのだけれど、
今一つ絵画の魅力が足りないのは、
時代相にも、その因が・・・・
聖徳記念絵画館が出来上がる前後の時代は
正に西欧化の大波が押し寄せてきた頃であり
かろうじて日露戦争を勝ち越して残るには残ったが、
疲弊と西欧化への願望とが渦巻いていた。
絵画の世界もしかり、
写真的写実こそこれからの主流!
そういう風潮が強烈だった。
写実に偏らず、
写意を優先し魅力化した伝統的大和絵すら
時代遅れの烙印を押されていたころ・・・
芸大の教授さえもが、写生帳を片時も離さない時代だったから
この作品は、和紙に岩絵の具で描かれているのに、
油絵的写実に留まってはばからない。
加えて、この壁画群の性質として、
画題が始めから他人によって選定されており
大方の構図、などにも自ずからある程度の制約があり
画家の自由自在なる創作性に委ねられる割合が少なかった
よって、後に芸術院会員にまで登りつめ
画家として大成功を納めた程の立派な先生も
制約を大真面目に受け止め、
ましてや、自分の名付け親の実像を描くのに
全力を振り絞って写実力のみを注いだ結果が
・・・この様に
少々陳腐と言わざるを得ない作品になった・・・・
芸術的価値と言うよりも、
記録的価値が優先してしまった典型例であります。
客観性が九分九厘を占め
主観性が殆ど見当たらないのは
時代の要請を真摯に受け止めたが故とも言えるのでしょう。
だがしかし、結城素明(ゆうきそめい)の
愚直なる?写実性の力量こそ
この壁画制作に無くてはならないものでもありました。
つづく
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