2015年03月11日

日本画らしい日本画

その昔、額装された絵はありませんでした。
日本の絵画は大体、掛け軸だったから・・・

多くは床の間に飾られた掛け軸、
季節の移ろいに合わせて掛けかえられ
楽しんだ後は、巻き取ってしまうもの、
また来年同じころに出してきて楽しむ。


壁に飾られっぱなしの額縁絵画とは一線を画し・・・

巻く物だから、絵の具が厚塗りされていると
出したりしまったりする毎に絵の具がひび割れたり
剥落したりするので、薄塗りで仕上げるのが普通。


絵師達は、
薄塗りで深い味わいを出すことを目標にしていました。


額縁絵画は、パネルなり、カンバスなり、
たとえ絵の具が盛り上がっていても
巻き取る必要はないので薄塗りでの勝負はしなくても良い。

むしろマチエール(絵肌)の風合が加わって
ぐいぐい厚塗りしてある方がザン新に見える場合さえ・・


明治時代頃から西洋的な文物が洪水のように押し寄せ
絵画もご多分にもれず、額縁絵画がもてはやされる様になって、

旧来の掛け軸絵画がどうも地味に見えてしかたない
・・・と言う時代が長く続いた。


掛け軸を飾る床の間も随分なくなったので
家具としての絵画の殆どは額装となり、
日本画と西洋風絵画との差がわからなくなった。

描いている画家自身その区別をつけられない、ほどに・・・

つまり日本画らしい日本画は消滅?・・・と言う現実。



それは、絵の世界だけでなく日本らしいものが外国のものとごちゃまぜにされて消えてゆく・・
のは当然の様で、むしろそれは奨励されてきた感すらあり、

それをグローバルとか国際的とかなんとか・・・
御題目は立派だがその実、平均的劣化奨励現象が長く続いたのです。



しかしこの頃は日本を見直す気風著しく・・・

例えば
日本食が世界に冠たる食であることに
日本人自身も気づいた・・・


国産という事が素晴らしく大切な事とされ
日本の良さを外国人も認めざるを得ない・・・


が、

絵画の世界では殆どの人が西洋風の作柄を取り入れて
掛け軸などは放り出し、
長い間、目新しさだけを目指し
西洋風を取り入れることのみに地道を挙げてきたので、
たとえ日本画=大和絵(倭絵)の良さを再認識できても
現実問題として大和絵を創作する力は、
もう既に失われ・・・・

つまり、ごく単純な意味で絵らしい絵が描けない。

薄塗りで深みを出すと言う事は非常に難しいので
たゆまぬ訓練による相当な熟練が必須・・・・

厚塗りでぺたぺた塗り重ねるのはさしたる技は要らず
誰にでも目先の結果は与えられるので、熟練もなく、
独りよがりで充分、
技術らしい技術はとっくの昔に忘れ果てたし、
勿論取り立てて練習することもなく・・・
結果・・・
絵らしい絵が、・・・・・無くなった。


絵らしい絵が描けるように育つための環境さえ絶滅に近く
まるで魅入られたかのように西洋風に憧れた結果
日本画らしい日本画を創れないし
創れなくなった理由さえわからない。
気づこうともしない。
そんな・・・・恐ろしく劣悪な時代になってしまった。


食は毎日のことだから
いくら洋食が好きな人でも
時折ご飯に味噌汁が欲しくなるから
日本食の根底が崩れさることはないけれど・・・

美術はそうは行かない。

生きてゆくだけだったら、美術は不要だから、優先順位にも入れてもらえず、常に、二の次三の次にされる・・・つまり・・・

長い間大和絵から遠ざかる事にのみ目標を置いたので
いまさら戻れないし、
戻ろうとしても戻れない、
その素養もなく、育てる環境さえままならない・・・



本格的日本画家が育つ様な土壌が皆無になりつつある。

鉛筆で写生することを優先させ、
明暗による写実訓練をさせられる・・・
筆は後回し。

額縁絵画に筆の訓練はトクベツ要らないから・・・

だが、絵画と筆とは切っても切れない関係にあって
こんなことを改めて言う必要がないくらい
絵画にとっての必須アイテムは筆なんで・・
筆技こそなくてはならないもの・・・
だから出来るだけ初歩の内に肝心要の筆技をたたき込まなければならないのです、


が、現実には額縁絵画奨励教育が
堂々と全国の美術大学で行われており・・
全員にそれをさせるから全員が骨抜き状態に陥る・・・
それにならって巷の各種美術講座も筆技をないがしろにする。筆技こそ絵画の骨格なのに・・・

現代人は筆を使わなくなって久しい、・・・どころか
鉛筆も使わないしボールペンも持たず
キーボードすらなくタッチパネル・・・

せっかく美術に憧れて美術に生涯をかけようとする若者に筆に親しむ教育をしさえすればいつか見事にその素養を開花させることが出来るのですが・・・
岡倉天心先生が東京美術学校第一期生の横山大観らに課した課題は筆技でした。
一メートル以上の長さで同じ太さの直線を紙が真っ黒になるまで描かせた・・・
真っ直ぐな線・・・
これには辟易した・・・と大観は後に述懐しています・・・
が、そのおかげで彼等は素晴らしい絵画を生み出し、
いまでもその恩恵を享受させてもらえるのです・・・



単に美術教育だけにとどまらない
欧米のフィルターを通して物事を見る
ことに慣らされて何ら疑念なく、
本来の可能性を自ら封じているのが
非常に残念な日本人の現実・・・・

東京大空襲によって10万人以上を焼き殺し、それで・・
まだ足りず、二発の原爆による無差別殺戮を行った挙句
こともあろうに
戦争犯罪国家という汚名すら付与してくれた連中に
今なお良いように小突きまわされている・・・・





       IMG_2164.JPG
        【倣光吉若紫之図】第70回春の院展同人小品展出品作






【日本画の真髄の最新記事】
posted by 絵師天山 at 05:45| Comment(0) | 日本画の真髄
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