2014年12月21日

魅惑の百人一首 47


【恵慶法師】(えぎょうほうし)

八重葎茂れる宿の淋しきに人こそ見えね秋は来にけり

   やえむぐらしげれるやどのさびしきにひとこそみえねあきはきにけり




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                 天山書画






“八重葎(やえむぐら)”とは、幾重にも重なり茂り合った草ぐさ。

偉大な生物学者でもあられた昭和天皇様の名言に
雑草という名前の植物はありません”とありますが、
葎(むぐら)は、アカネソウ科の植物であり、
昭和大帝には誠に大変失礼ながら、これこそ・・・雑草の代表格と言えましょう。


“人こそ見えね”は、訪れて来る人とて居ないけれど・・・

秋寂を感じさせる詠歌です。


“河原院にてあれたる宿に秋来ぬ、といふ心を人びとよみ侍りけるに”・・

と、前書があり、河原院とは・・・お馴染み源氏物語主人公、
光源氏のモデルともされている
源融(みなもとのとおる)が、六条に造った数寄を凝らした庭園で、
百年を経てこの作者恵慶法師が歌友達と共にたまり場としていた処なのです。


その頃はもう荒れるに委されていたようで、
廃園に人の姿も見えないことを、見えぬ秋がやってきた事に掛けている訳ですね。

河原院であったとされる庭園は今もあり、京都駅の北、徒歩僅かの位置に現存していますので、
旅のついでに立ち寄ってみるのも一興。

謡曲では秋の演能の代表作に【紅葉狩】が有名ですが、
この和歌が登場していて、秋深まる山々に出かけてみたくなるオモモチ・・・
誰もが求める爽やかなる秋気を謡い綴っています。


古今集 秋の秀歌で有名な

秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる

と言う、藤原敏行の名作に似たところがあります。

人こそ見えね・・・・と言いながら・・・

実は古人今人共に通じ合う秋への思いが込められて、
歴史の推移と自然の推移とが同時に詠み込まれているのです。







posted by 絵師天山 at 15:00| Comment(3) | 百人一首
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