【右近】 (うこん)
忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな
わすらるるみをばおもわずちかいてしひとのいのちのおしくもあるかな

この歌にゾォゾォーっとする男性は思い人にゾッコン愛された経験があるはず。
あるいは、源氏物語に登場する六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)を想起した人は、かなりの源氏オタク。
正しくモノノあはれを知る人です。
忘れられてしまう辛さは何でもないけれど、私を忘れないと誓ったあなたに天罰が降って万一の事が無ければ良いけど・・・・・・・・・・!
なんて言われたら男性はもう縮み上がって生きた心地もしない?
この女から離れようなんてこれっぽっちも思えなくなる強烈さです。
情の深さゆえの嘆きをこんな形でぶつけられたら・・・・?
右近は、右近衛少将(うこんえのしょうしょう)藤原季縄(すえなわ)の女(むすめ)であり、醍醐天皇中宮穏子(だいごてんのうちゅうぐうおんし)の女房。上流貴紳らと恋を重ね、この歌は権中納言敦忠(ごんちゅうなごんあつただ)=後出、に贈った歌であろうとされています。
敦忠は藤原時平の三男、母は在原業平の孫に当たり、三十六歌仙のひとり、才芸に優れ、評判の美貌の持ち主であった・・・とされています。イケメンはつらい・・・・
【大和物語】(伊勢物語に似た代表的な和歌物語)には
“男の忘れじとよろずのことをかけて誓ひけれど、忘れけるのちにいひやりける”
として、この和歌が見える・・・が、その返しは“えきかず”とあり、縮み上がった男性は返事もままならず・・・・返し歌どころではなかった・・・・!?
作者自身も共に誓ったのである。との説もあって、その場合は、
いずれ捨てられるわが身のことなど考えもしないで神に誓ったけれど、一緒に誓ったあの方は心変わりの報いを受けないのかしら・・・? と、幾分強さは減じる、ものの・・・かえって、後からしみじみと恐ろしさがジワジワ・・・私は貴方から捨てられるという神罰をもう受けているけれど、貴方の方は??罰があたって・・・死んでおしまい!!!!・・・・
中宮様の女房として数々の恋愛遍歴を重ねた複雑な女心を巧みに表現したのでありましょう。
後出、敦忠の詠
“あひ見ての後の心にくらぶれば昔は物をおもはざりけり”は、
いったい誰に対しての歌だったのか・・・・
そして、右近の真情は如何に!!!