2014年09月16日

魅惑の百人一首 29


【凡河内 躬恒(おおしこうちのみつね)】

 心あてに折らばや折らむ初霜の置き惑わせる白菊の花

 こころあてにおらばやおらんはつしものおきまどわせるしらぎくのはな





           mitune.jpg







 “置き惑わせる”・・・・

何といっても、この詞が素敵!!

霜が降るような晩秋に楚々と咲く白菊は、清潔感そのもの。

霜だか菊だかはっきりしないくらい?
万物鎮まる頃・・・


“心あてに”・・・が次に来る強い印象。

あて推量に・・・あてずっぽうに・・・・といった意味でしょうか、

貫之と並び称せられた名歌人凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)の歌は
本当にどれもこれも素晴らしい!!



日本画の世界に余白の美あり、
面白いところは誇張し、つまらないところは省略してしまう・・・という造形法がありますが、

この歌は正に一幅の名画。

白菊以外は何も描かないのに、晩秋の気、初冬の兆し、を感じ
霜が降りた様に感じさせてしまう描出力が冴え冴えとしている!

霜だか白菊だかどちらか解らないくらい?気韻に溢れているのでありましょう。

この様な名歌は、口語訳しようとどんなに苦心しても、つまらない説明に終わる。

つまり、和歌でなければ伝えられない真実をがっちり掴み取っている証である、と思われるのです。


定家は百人秀歌で、この歌を紀友則の歌

ひさかたのひかりのどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ

と対にしていますが、春と秋、しづ心なく、と置き惑わせる、とに
共通の普遍なる心を誰しも感づるが故でありましょう。

早朝に置かれた初霜の白さと競い合うように咲く白菊、
その見事なまでの清新さ、見まがうはずもない霜と菊との対比を誇張し、
適当に折り摘んでみよう、などど、実際にはしない行動まで提示してみせて・・・

実に見事な創意に驚かされるのです。

後の世に、この歌を駄歌!とこき下ろした正岡子規・・・・
その、子供じみた稚技こそ一笑されるべきでありましょう。

古今集の撰者となり、三十六歌仙のひとりである躬恒は、確かに大天才!!

躬恒集を読めば、心躍る得難い体験が確実に味わえます。
正岡子規の何倍も深いから・・・・








posted by 絵師天山 at 04:00| Comment(0) | 百人一首
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: